かけら/青山七恵

かけら

かけら

表題作の他に2編の短編を収録。
いずれの作品も、事件というほどのない出来事が、例えば、寡黙な父親と二人で旅行に行ったり、結婚式前に以前の恋人の事を思い出したり、結婚直後の家庭にちょっと風変わりな少女が居候することになったり、そのような出来事が起こす心のさざ波を、著者は巧みに描き出しています。

僕は、小さな出来事で感じるかすなか感情の揺らぎの積み重ねが自分自身を構成していく、と思っています。もちろん、事件と呼べるような大きな出来事で感じた感情が人生の転機になる事は当然だと思うのですが、そうではない、覚えていられないような小さな出来事や体験で感じた感情だって、自覚することはないにせよ、それらが積み重なって自分自身を形づくっていくものだと思います。
自分自身を劇的に変化させる程のこともない感情の揺らぎというのは、それを表現することは難しいし、そのこともあってか、人はなかなか覚えておくことができません。だけれど、自覚することはなくとも、そのような感情の揺らぎの積み重ねが自分自身を構成していることは間違いないし、緩やかに自分自身の変化につながっていく。

そのような小さな感情の揺らぎを表現する、あるいは言語化して、覚えておくことができたら素敵だろうなと僕は思っていたのですが、そういう才能には恵まれていないようでなかなか、そういう事はできていません(この読書blogを書こうと思ったのもそういう気持ちが契機だったのですが)。しかしながら、この小説で著者は見事にそれを表現していると思います。
著者の描き出す心のさざ波は、僕のような感情の揺らぎを表現するボキャブラリーを持たない読者に、それの表現の在り方を示してくれると共に、それが、自分自身を構成する一つの重要な要素であるということを示してくれるものだと思います。