生田紗代 / オアシス

オアシス (河出文庫)

オアシス (河出文庫)

著者の作品を読むのは初めてでした。

二つの物語が並行して走ってゆくストーリーライン。一つは、主人公が盗まれた自転車を探してゆく物語。もう一つは、突然、全ての家事を放棄して何もしなくなってしまった主人公の母の物語。若干ネタバレしてしまいつつも書いてしまうと、どちらも物語も終わらないまま、語りが終えられます。

感じたことは、失くした物を探すということは、それ自体、「生きる」ということへの前向きなエネルギーの象徴的なところではないのか、ということです。主人公は失くした自転車を見つけるために貼り紙までしてしまうのに対して、主人公の母は自分の失くしたものが何であるのかすら見つめようともせず、本当に何もしない。この作品からそういうことを感じました。

こういう風に書いてしまうと、生への意欲に満ちた暑苦しい主人公を想像してしまいがちなのですが、そうではないところが興味深いです。あくまで、サバサバとした生き方で、そしてフリーターでもある。でも生きるという事へのエネルギーには満ちています。これって僕たちの世代を考える上で一つのキーになりうる感じがします。語り口も、一人称なのだけれど、どこか醒めているナラティブが好き。結構、悲惨な状況にあってもどこか第3者的で。

著者は僕と同い年で、作品にでてくる音楽もすごく馴染み深いものでした。例えば、radioheadのno surprisesだったり、oasisのstand by meだったり。外出先で読んでいたのですが、思わずipodで聞いちゃいました。同時代性っていいですね。