長嶋有 / ジャージの二人

ジャージの二人 (集英社文庫)

ジャージの二人 (集英社文庫)

2003年の作品。タイトル作と「ジャージの三人」という二つの連作を収録。妻に公開不倫されてる無職の夫が父親と一緒に山荘にこもって何もしない話。

作品を読んで、「よどみ」だとか「とどこおり」だとか、そういう事が連想されました。主人公である夫は無職かつ妻には不倫されて、完全に手詰まりの状態にあって。日常を暮らす現場から隔離された場所で逃げているのにも関わらず、それでも時間が流れてゆく。当たり前の事だけれど、時間が流れなかったら人生も滞らないのだなと、思います。そういう生き方を肯定的に受け止めるか、否定的に受け止めるかは、人によるのだろうけれど、前者の場合であっても、流れに抗ってよどむという、ある種のカロリーの高さを必要とする生き方なのではないかと思います。

著者は情景描写に物凄く長けていて、何気ない風景に主人公の気持ちを映し出しているように思います。直接な心情描写よりも、豊かに、繊細に読み手に伝わってきます。こういう文章を読んでいると、「自分がわからなかったら空をみろ」とか、そういうことも、強ち嘘ではないのではないかと思えてきます。