三崎亜記 / 失われた町

失われた町

失われた町

「30年に一度起こる町の「消滅」。忽然と「失われる」住民たち。」という帯に魅かれ、装丁にも魅かれ、小川洋子の「密やかな結晶」的な感触を期待して購入。結果としては全く異なる作品でした。

装丁の与える印象を反して、形式としてはSFでした。テクニカルな部分においてSFという形式で難しいと思うのは、何が小説独自の設定であり、何が現実社会と共通した設定であるのかを明確にする点だと思うのですが、本作品ではこの点が若干不明確であるのかな、と思います。一応、日本が舞台なのかと思ったら、全然違う国だってことが中盤以降に分かったり。

僕がSFだとか幻想文学の意義に求めるものは、あくまで現代社会に対しての何らかの示唆なのだな、ということを思います。我々が自明に思っている、あるいは所与のものだと思っているような社会の前提とは異なる前提に立つことによって、「ありえた(possible/alternate)」な社会のあり方を模索することが可能になるのが、SFという形式を採用することの最大の長所ではないかな、と。

本作品ではSFという形式を、ストーリーを走らせるために使っている部分が大きなように感じました。ストーリーラインは起伏に富んでいるのだけれど、若干ヒロイックな部分がありすぎるように思います。ちょっとアニメっぽくすらあるな、と。アイデアは物凄く面白いと思ったので、もうちょっと内容が違っていればと思うのですが、もしかしたら著者は、僕の思っているような方向性にはあまり興味がないのかもしれないなと思います。