村上春樹/1Q84

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 2

1Q84 BOOK 2

村上春樹氏は僕の最も好きな作家の一人です。今回の作品もとても楽しんで読めました。ページを繰らせる力と考えをめぐらさせる力の両方を強く持った物語だと思います。

内容は、「僕の中にあるもの」と「僕の外にあるもの」に関する物語であるように僕は理解しました。物語の構造も共通しているのですが、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」「海辺のカフカ」に位置づけられる話なのかなと思います。以前の2作からの最も大きな相違点は、「僕の中にあるもの」に「(僕以外の)他者」が取り込まれうるという点であるように思います。その意味するところは・・・まだ咀嚼しきれていないのですが。

本作は今回は性に関する描写がとても多いです(以前から多かったのですが)。
これは「ねじまき鳥」で暴力について過剰までに描写がなされてる事とパラレルな事象で、もちろん著者にとって伝えたいことがあってそれを伝えるために必要不可欠なことなのだろうとは思います。「ねじまき鳥」では、暴力を描くことで、生きるということに内在する暴力的な性格や、歴史に代表されるような不可避な「つながり」の暴力的な性格が、僕には伝わってきました。「ねじまき鳥」を読んだ時も、初読の時は過剰な描写に生理的な嫌悪があったのですが、本作でも同様にちょっと生理的な嫌悪が先立ってしまっていて、うまく咀嚼できないというのが今のところの感想です。

でもやはり、現実に忙殺されている中ではけして考えることはないであろうことを考える契機になってくれる物語を読むことができるのは、ものすごく幸せなことだと思いました。現代社会における物語の役割は、もしかしたらこういうところにあるのかもしれないと思います。