保坂和志 / プレーンソング

著者の作品は初読でした。

サラリーマンをやってるらしき30過ぎの主人公の日常を描いた、タイトルどおりプレーンなストーリーライン。物語とすら言えないかも知れない生活の描写。アプローチは全く違うのだけれど、明治・大正の私小説あるいは自然主義文学の匂いを若干感じたりもしました。

主人公の周囲の人物が、明るいのだけれど、でも、どことなくいびつで、それがかすかに切ない。でも、なんとなく希望を感じさせる。僕はこういう小説は好きです。

1990年の発表ということで、バブルの匂いを若干期待していた所ではあったのだけれど、いい意味でその時代を感じさせません。ただし、時代の影響を受けてないかと言えばそうではなく、いわゆる「負け犬」「階層社会」「年収300万層」を通過した現在において、こういう文章が評価されるかと言えばそうではないように思います。

個人的には感情移入ではなく、自分自身と登場人物との差異を楽しみました。面白かった一例として、「ねこは一匹単位で愛でるものではないのよ、ねこ総体として愛してゆかなくっちゃ」。こういう感性は僕にはこれまでなかったな。