長嶋有 / 猛スピードで母は

著者の本は初読。タイトル作と「サイドカーに犬」という2編を収録。

全体的に仄暗いトーンの落ち着いた文体。どちらの作品も子供が主人公で、かつあまり一般的にあまり恵まれていないと評されるような家庭環境(両親が離婚していたり、奔放な異性関係をもっていたり)におかれています。そんな環境におかれた子供の成長物語と呼んでもいいのかもしれないと思います。

成長というのは、劇的な何かではなく、かすかな変化といってもいいと思います。そういう内面を鋭くとらえた観察、そして描写は芥川賞作家に本当にふさわしいと感じました。心理学(質的なものも含めて)や論理では捉え切れない、雰囲気というのかそういうものを伝えてくれる、小説でしかできないことをやってくれた、素晴らしい作品でした。