熱帯魚

東京湾景の原作者による2001年発行の短編集。「熱帯魚」「グリーンピース」「突風」の三作を収録。

グリーンピース」が、物語として物凄くおもしろかった。かいつまむと、主人公が彼女と喧嘩して仲直りするの話しなのだけれど、タッチがやたら明るくって、ちょっとコミカルでシニカルでスクラップチックで。
主人公もその彼女も好感がもてる感じで、主人公はちょっと理不尽なんだけれど(わけわかんないことで怒って彼女に缶詰のグリーンピース投げつけまくったり)、やたら情けない(怒って石鹸を壁に投げつけて、それが股間に命中して悶絶したり)。彼女は彼女で喧嘩したからって主人公の男友達のリストをもらって全員と浮気し始めるし。いや、冷静に考えると物凄く悲惨な状況ではあるんだけれど、何故か物凄くおかしい。映画になったら面白いだろうな。

三作を通して、非日常的な出来事が起こって、そこから日常へと回帰してゆくっていう構造があって、たとえば、

  • 「熱帯魚」では、託児所に赤ん坊を人質に立てこもる犯人。
  • グリーンピース」では、グリーンピースを彼女にぶつけまくる主人公。
  • 「突風」では、田舎で民宿で夫と平和な暮らしを営む人妻を東京に連れ出す主人公。

でも結局は主人公は日常に戻ってゆく。

これって、非日常的な出来事というのが、日常の一部でしか過ぎないことでしかないということなのかなと考えた。これって、非常にパラドクシカルなことだけれど、こういう風に理解すべきなのではないかと思う。「人はありふれたことに過ぎないことでも、日常的でないと思う傾向がある」と同時に、「人は日常から多少ぶれたことでも、日常と思う傾向がある」。

うまくまとまらないけど、そういうことを考えた。