小川洋子/密やかな結晶

博士の愛した数式」の原作者の1994年の作品。というわけで、コンテンポラリーかと言えば、そうではないのですが。芥川賞受賞作家だそうです。僕が初めて読んだ著者の作品。友達から僕の好みっぽいと言われて読んでみたのですが、かなり好きです。

「消滅」という現象で様々なものが忘れ去れてく孤島の話。個人的にはオースターの「最後の者たちの街」や村上春樹の「世界の終わり」みたいな寓話という感じの雰囲気をまとっています。決してドラマティックな訳じゃないのだけれど、しっとりと息苦しい感じで物語が進んでゆきます。物語の構成としてもよく出来ていて、このまま「消滅」という現象が続いてゆけば、どのような結末を迎えるのか、どうしても興味を持たずには居られないし、どんどんページを繰ってしまいます。個人的には「消滅」という現象をテーマにした思考実験のように読みました。

2006年10月現在、僕は2回読み返したのですが、初読時にはどうしても結末への興味から読みが粗くなってしまうと思うので、是非2回くらいは読むことをオススメしたい小説です。著者はアンネの日記に傾倒しているそうですが、そういう文脈で読んでも興味深いように感じます。

でも、倒錯的な部分だけがちょっと理解しがたかったりします。表現は、こういうことを言うとフェミニストに怒られるのかもしれないですけど、繊細っていう意味で女性的な感じがしました。