小川洋子 / 博士の愛した数式

この作品は、著者の中で「密やかな結晶」に続いて2冊目に読みました。
最近、200万部、突破したそうですね。映画の効果もあると思うのだけれど、この作品では何ていうかコマーシャルではないけれど、世代を問わず愛されるところがあると思います。「密やかな結晶」は僕は大好きな作品だけれど、やっぱりゴスな香りが何ていうか受け付けない人もいると思う。

僕が著者について特筆すべき点だと考えるのは、物語としては動きがないのにも関わらず、読み手にページを繰らせる力のある文章を書くことができる点です。うまく表現できていないので、卑近な表現をすると「事件が起こる前の幸せな日々」っていうか、映画でいうと始まって20分から40分くらいのところっていうか、そんな感じの部分が長くて、それが非常に心地いいです。普通そういう部分が長いと飽きてしまうと思うのだけれど、小手先の技巧だけではなく著者が提示したい世界観がしっかりしているからこそ、非常に魅力的に読むことができるのだと思います。まあ、僕が、ハリウッドとか観てて思うことは、「このまま何も起こらなくってもいいのに」ってことだったりすることは差し引いていただきたいのだけれど。だけれど、もちろん、単なる幸せな日々だと物語としては意味をなさず、いつかは動いてゆくわけだけれど。