小川洋子 / 物語の役割

物語の役割 (ちくまプリマー新書)

物語の役割 (ちくまプリマー新書)

タイトルからも分かるように小説ではなく、講演をまとめたものです。3部構成になっています。

それぞれのテーマをごくかいつまんでまとめると、第1部は認識の手段としての物語を論じたもの、第2部が創作活動の対象として物語を、つまり物語を創作のプロセスを論じたもの、第3部は物語をその機能の観点から論じたもの(自我の形成だとか共感だとか)、という構成になっています(かなり恣意的なまとめ方ですが)。それぞれが非常に興味深かったし、例示されているので理解しやすいです。

受け入れ難い現実を物語へと転化することで、受容可能にする。著者が心の働きであると指摘するこの点は、僕自身が素朴に考えていた人生観と一致するところがあるな、と感じます。

読み終えて、行為としての物語というか、「物語る」という行為の意味するところについての、著者の考えも是非聴いてみたいと思いました。
現実を認識する手段として物語を作り出すという心の働きがあるということ、それは僕の考えとも一致するのだけれど、著者は、現実をフィクションも交えて再構成するという側面を強調しています。僕の考えはそれとは少し異なっていて、無意識の聞き手としての「他者」を想定し、「他者」に物語ることを前提として現実を再構成することこそが、物語として現実を再構成することの意味ではないか、と僕は思いました。逆に言えば、認識が物語的な構造をとるのだとすれば、個人的な体験に思える認識という行為すら、不可避に他者の存在によってのみ、可能になるのかもしれない。そのような考えを持ちました。