長嶋有 / 泣かない女はいない

泣かない女はいない

泣かない女はいない

2005年の作品。タイトル作と「センスなし」という2編の短編(中編?)を収録。

両者とも30歳間近の主人公の「何処にも行けない」感覚を描いた作品。それを非常に繊細に描いています。親会社に吸収される直前の子会社、夫に愛人がいる夫婦。それを淡々と描いています。

この作品も含めて著者の作品には派手さはないです。物語もそれほど動くわけではないし、結末で何か状況が好転するわけではない。だけれど僕が著者の好きな理由は、おそらく1点目として、情景描写を中心に感情の機微を繊細に描いた技巧的な文章が好きだということです。
そして2点目は、うまく言う事はできないのだけれど、それほどいいとは言えない状況を淡々と描いているだけなのにも関わらず、なぜか希望を感じさせるところです。読み終わった後、やる気がみなぎるとか、そういう事はないのだけれど、うっすらと光を感じるような感覚に陥ります。

著者は僕より大体10歳くらい年上で、作中にでてくる文化的なアイコンが、名前は知っているけれどリアルタイムで経験してない、みたいなものが多いです。例えば、KISSとか、例えば聖飢魔?とか。多分、同世代の人にはもっとヴィヴィットに伝わってくるんだろうけれど、僕にも何となく分かるのは、作中にでてくる登場する音楽は当時であって「オシャレ」だとか言われていたものではないということ。この、かっこ悪いから人には言えない、だけれど、好き、みたいな感触とそういうものを持つ登場人物にはなんとなく共感してしまいます。