柴崎友香/きょうのできごと

きょうのできごと (河出文庫)

きょうのできごと (河出文庫)

著者の本は初読。
なんとなく映画が合いそうな小説だなと思いながら読んでいたら、既に映画化されていました。

保坂和志氏の書く文章に感触がとても似ているなあ、というのが読後すぐの感想でした。文庫の解説を保坂和志氏が書いているので、そのバイアスがかかっていないかと言われると、ちょっと自信がなくなってしまうのですが。

どういう点が似ているかというと、物語を動かす事にこだわらず、ひとつひとつの感覚や心象を言語化する事に注力している点です。本作の著者の方がボキャブラリーも含めて、僕なんかにとっては分かりやすいのですが。

本作を読んで考えた事は、感覚を研ぎ澄ますということの意味についてです。感覚を研ぎ澄ますというと、例えば耳を澄ますだとか、目を凝らすだとか、感覚に集中させることをイメージするのですが、それだけではないのではないかと思います。
例えば、ある物を見て美しいと感じたとして、何故美しいと感じたのか、と内省することもおそらく感覚を研ぎ澄ますことになるのではないか、と。本作の登場人物は深く、深く、そのような内省をしています。

物語は大学生5人の瑞々しいストーリーです。特に何が起こるというわけでもないのだけれど、魅力的な物語になっています。とても楽しんで読めました。