よしもとばなな/みずうみ

みずうみ (新潮文庫)

みずうみ (新潮文庫)

オリジナルは2005年の作品。

若干ネタバレになってしまうのですが、村上春樹1Q84と通じるところのある設定になっています。ボリューム・構図ともに本作の方がよりシンプルなのですが(もちろん、内容も同時に薄くなっているという事ではない)、カルトな宗教で特殊な環境に育てられた人物が重要な働きをしている点が共通しています。

本作のように、登場人物の特殊な生い立ちをテーマにした作品だと、いかにして個別性を超えてメッセージを放つことができるか、がとても困難なように思います。あえて村上作品と比較すると、彼の作品では特殊な生い立ちや境遇や能力をもつ人物が数多く登場する「特殊性」を、「僕」という凡庸でパンピー(死語)が語り手を媒介させることで、その個別性をのりこえているような気がします(語り手に名前が与えられている1Q84などの作品はちょっと性格が違うか・・・)が、筆者の場合は恋愛小説的なタッチを加えることで(もう少し厳密に言えば、恋愛感情という普遍的な感情を媒介させることで)それを乗り越えようとしているように思います。

全体として漂う静謐な雰囲気の割りに、伝わってくるものの濃い作品でした。ラストに希望が差し込むところが、そしてそれが淡く頼りなげに繊細に描写されているところが、またいいです。