柴崎友香/フルタイムライフ

フルタイムライフ (河出文庫)

フルタイムライフ (河出文庫)

恥ずかしながら著者の小説を読み始めるようになったのは今年に入ってからなのですが、今のところ僕にとって今年最大の発見です。
本作もとても好きです。

美大を卒業した主人公がOL(って死語っぽいよなあ)が初めて10ヶ月の間について描いた物語。主人公は、お金もないし希望した仕事にもつけていないし彼氏もできないし、そういう本当になんてことはない生活を送っているだけなのだけれど、それを何だかとっても魅力的に、羨ましくすら思えるような生活に思えてしまう。それが本作の、そして著者の最大の魅力だと思います。

世界をキラキラとしたものに変えるためには、周囲が理想の状況である必要はなく、自分の振る舞いを変える必要すらなくって、おそらく自分の視線を変えるだけでいいんだろうな。そして、そういう人の存在は周囲を心地よくしてくれるんだろうな、と思います。

相変わらず関西弁で淡々と世界を周囲を自分を一人称で綴っていく主人公。一人称だけれど、主人公の直接的な心象描写はほぼなく、彼女の周囲への描写から淡くそれが伝わってくるような文体です。そうなのだけれど、不思議なことに、直接的な心象描写では絶対に伝わってこないことまで伝わってくるような気がします。世界を語ることは自分を語ることでもある。そういう事を強く感じます。そして、そして自分を語ることは形作ることでもある。だから、世界をキラキラしたものとして語ることができたら、自分をキラキラとしたものに変えていくことができる。みたいな三段論法が成立するんじゃないかってところまで考えが飛躍してしまいました。

そういや、主人公が初めてボーナスもらって「こんなもらえるんだ」って感動する下りがあるのですが、僕も学生が長かったんで初めてのボーナスで「なんでこんなにもらえるんだ」って相当感動したものを覚えています。そういう気持ちっていうのは失くしてしまいそうだけど、でも大切にしてた方が豊かな人生をおくることができるだろうなー。