ロバート・A・ハインライン/夏への扉

夏への扉[新訳版]

夏への扉[新訳版]

SFの名作。ずっと読みたかったんだけどなんとなく縁がなくて、1984年が面白かったのをきっかけに、改めて探してみました。確かエヴァの監督も桜井亜美(この人はまだデビューの頃の作風でやっているんだろうか?)との対談で好きだと言っていたような気がします。

SFなのだけれど小難しいわけではなく、とても読みやすく、そして面白い作品。
「(著者が本著を上梓した)1950年代というのは素朴に科学や未来を信じることができるいい時代だったんだ」というのが読後すぐの印象でした。でも、すぐにそうではないのだろうという事に気がつきました。よく考えてみればその時代だって冷戦の気配の忍び寄る時代だったわけで、物語をこのように動かしたのは著者の未来や人間を信じる強い信念なのだろうと思います。もちろん、ご都合主義っぽい部分は垣間見えるわけで、アメリカ社会がハッピーエンドを好む社会なのはあるのだろうけれど(フィッツジェラルドがハッピーエンドを強要されたとか、そういうのも分かるなあと)。

希望を語る事が容易な時代なんてないのだと思います。今が50年前と比較して困難な時代だと現代に生きる我々が語るのは被害妄想に過ぎないと思う。でも、今が50年前と同じくらい困難な時代だということは言えるかも知れない。だとしても、著者が本作で綴ったように希望を語る努力を忘れてはならないと思いました。僕自身はわりとすぐにペシミスティックな発言をして周囲を失望させてしまう事が多いのですが。

訳もいいのだと思うのですが、冒頭の下りは、SFとは信じられないくらいリリカルで美しく、とても印象的でした。