梨木香歩/西の魔女が死んだ

西の魔女が死んだ (新潮文庫)

西の魔女が死んだ (新潮文庫)

著者の作品は初読。友人からのオススメで読んだのですが、想像以上にいい作品でした。

全体的に繊細なニュアンスで描かれている日常生活の描写がとても美しいです。特に中盤の魔女と主人公との田舎での幸せな日常の描写が特に印象的でした。丁寧で美しくて地に足の着いている、小川洋子さんを思い起こさせるような日常の描写です。自然の中で自然のものを自然なやり方で食しながら生きるという、必ずしも僕はそういう嗜好の持ち主ではないのにも関わらず、そういう生き方も魅力的だなと思わせてくれるような文章です。筆者が実際にイギリスで暮らした経験が生かされているだろうな、と思います。

僕が特に感銘を受けた点は、この作品がそういう美しい日常をただのサンクチュアリにしなかった点です。思春期の主人公が自分と社会とのつながりを必死で模索しているようのとパラレルなように、この小説自身も単に美しいものを描くだけではなく、(不可避に「汚らわしいもの」を内包する)社会とのつながりから逃げず、むしろ必死にリンクさせようとしています。正直なところ、そのような試みをしなかった方が物語としての完成度は高かったかもしれません。逆に言えば、そのような要素を盛り込む事によってある種の突っ込みどころや脇の甘さが否めなくなっているのも事実です。事実なのだけれど、たとえ不器用なものであってもそのような部分に果敢に挑戦する著者の姿勢を僕は心から称賛するし、逆に不器用だからこそ、とても勇気をもらえる作品になっていると思います。

児童文学とカテゴライズされる作品なのかもしれないけれど、大人が読んでも十分にインプリケーションのある作品だと思います。少なくとも28歳にしてまだ自己と社会の関係を整理しきれていない僕にとっては、色々と考える契機になる作品でした。