桜庭一樹/砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

筆者の小説は初読。
僕には、初めて読む小説家の作品を、わりかし斜に構えて読んでしまう悪い癖があるのですが、この作品は面白かったです。ライトノベルにカテゴライズされてた過去があったのはちょっと信じられないです。

ストーリーは、中学生の少女を主人公に子供の虐待や引きこもりなど、現代社会のアイコンを散りばめつつ、テンポよく進んでいきます。

砂糖菓子や形而上的な問いや虚言に表象される衒学的な世界観と、実弾や金銭に表象される実学的な現代の生を生き抜くための世界観。この2つの世界観が対比して描かれています。タイトルでも分かる通り、一見すると、前者が後者に及ばない、あるいは、前者より後者を価値とするかのような物語のように読めます。でも、僕は(若干の希望を込めてだけれど)、筆者の描きたかった事はそのような事ではないのではないか、と思います。

むしろ、この小説から僕に伝わってきたことは、以下の2点でした。

  • 前者も後者に押し潰そうとされながら必死に抵抗しているという事
  • 後者だけでは現代社会は捉えきることは不可能であるという事

つまり、前者の世界観の脆弱さやそれゆえに保護されるべき存在であるという風な主張をしているのではなく、現在社会を捉えていくために必須のものであり、唯一の武器なのであるという主張が込められた作品ではないかと、僕が受け止めました。

物語自体は、テンポもよく、グロテスクな表現や軽い文体に賛否はあるのだと思うのだけれど、僕自身はとても楽しんで読むことができた作品です。