吉本ばなな/哀しい予感

哀しい予感 (角川文庫)

哀しい予感 (角川文庫)

著者の作品は好きでかなり読んでいるのだけれど、何故か読んでなかった作品。
オリジナルは1988年発表。なのでもう20年も前の作品。10年一昔前だとすれば、もう2昔も前の作品になります。けれど、そういう意味での古さは全く感じません。

傷つきやすさや繊細さや心の動きを繊細に描き出した作品で、言うまでもなく佳作。ともすれば昼ドラみたいに(とは言え僕は昼ドラを見たことが一度もないのだけれど)なストーリーラインで、筆者の清潔感のある文体や描写がそれを過剰なドロドロした感じではなく、エンターテインメイントでありつつもアートな領域に押しとどめているように思います。

だけれど、この作品が素晴らしい作品であるがゆえにこそ、もう少し早く読んでおきたかったというのが正直な感想です。僕がこの小説を10代の頃に読んでいたら、せめて学部生の頃、いや院生でも構わないのだけれど、とにかくもう少し若い頃に読んでいたら、もう少し違った読み方ができただろう、もっと言えばもっとのめりこむ事ができたのだろう、と思います。近親相姦だとか淡い恋愛感情だとか、そういうモチーフがもともと得意ではなかったとしても。

なんていうのだろう、今の28歳でリーマンやっている僕は、そういう傷つきやすさや繊細さを残しながら大人になってしまったところを正直なところ否定できない自分がいます。これは傷つきやすい少年を気取るとかそういう事は全くなくて、正直まったくその事を肯定的に捉えられていません。周囲からはウジウジしているように思われている(のかどうかはよく分からないけれど)んじゃないかと気になるし、そう思われてたとしたら多分社会人というかサラリーマンの世界ではマイナスであるし。自分でもなんでこんなことをイチイチ気にしてしまうんだろうとか思うし、それが仕事のパフォーマンスが影響してしまうから本当にたちが悪い。そういう自分から変わろう、変わろうと思っていた現在の僕が本作品に出会ってしまったがゆえに、何だか以前の世界に引き込まれそうになって、心から楽しむ事ができなかったように思います。

否定的な書きぶりになってしまったのだけれど、作品がいいものであるがゆえにこそ、そういう思いが強くなってしまうのだと思います。逆に言えば今の僕でしか感じ得ない感情や作品もあるわけだから、今後も小説を読んでいきたいという思いを強くしました。