山崎ナオコーラ/人のセックスを笑うな

人のセックスを笑うな (河出文庫)

人のセックスを笑うな (河出文庫)

筆者の作品を読むのは初めて。表題作のほかに「虫歯と優しさ」という短編も収録。

「オレ」という一人称を使う美大生の主人公と、20歳年上の女性の物語。そして、まがう事なく恋愛小説です。性描写もあります。ここまで書くとなんだかギトギトした印象を与えてしまうのかもしれないですが、そういう類のものではないです。そういう類のものが苦手な僕が言うのだから間違いないと思います(シュリンクの「朗読者」で十分過剰だと感じた)。

むしろ全体的に淡いトーンで進んでゆく物語。物語描写の合間に主人公の語りを入れて、短いパラグラフを積み重ねる構成は、ワンカットが短くてモノローグの多い映画を見ているような感覚に陥ります。
そしてその主人公のモノローグがとても美しいです。基本的には何だか他人事みたいなモノローグではあるのだけれど、時に憂いを帯び、時に熱をはらみながら、ゆっくりとしたペースでの語りは、一言で言えば解説にあるとおりセンスがいいし、なんていうのだろう、温かみがじんわりと伝わってくるような気がします。

上述の通り、主人公が「オレ」という一人称を使うのですが、吉田修一氏の作品を読んだ後で本作を読んだからかもしれませんが、何ていうか「オレ」という一人称を使うのがふさわしくない位、線が細くて繊細で、とても印象に残りました。吉田修一氏の作品に登場するような男性も魅力的なのだけれど、自分に足りないものを突きつけられているようでちょっと辛いのですが、解説で触れられている通り「女性化」が進んだような本作の主人公と本当に対照的な印象を受けました。

筆者のほかの作品も読んでみるのが楽しみになる作品でした。