伊坂幸太郎/SOSの猿

SOSの猿

SOSの猿

いつもいつもエンターテインメントとしてレベルの高い作品を、物凄いペースで発表しつづける著者の作品。本作も全く期待を裏切らず、一気に読めてしまえました。

上述の通り、エンターテイメントとしては高いレベルを維持しつつ、著者が次のステップを模索しているようなところがあるように感じました。「オーディボンの祈り」や「重力ピエロ」などで顕著で、「モダンタイムス」で一旦答えが出された、「決定論的なものにどのようにして抗うか」というテーマを継承しつつ、どちらかというと「決定的論的なものはどのように形作られるか」にフォーカスを当てたような作品。そして本作では解は提示されないままにハッピーエンドを迎えます。

以前から思っていたのだけれど、著者は小説を書くという行為と、超越論的な存在によって決定論的な運命が導き出されるという世界観をパラレルなものとしてみているような気がします。著者にとって小説を書くという事は自分の意のままに登場人物を動かしてゆく事であり、それが超越的な存在が世界を意のままに動かしているという世界観につながっていくのかな、と。そして著者の描き出す完璧に整合性のとれた物語構造がそれに説得力を増させているように思います。

珍しく他の人のレビューを読んでみると、結構読みづらかったという声があるのですが、僕はあまりそういう感覚を覚えませんでした。近作が好きな人は是非読んでみては、と思います。