村上龍
- 作者: 村上龍
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/08/01
- メディア: 文庫
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著者は、徹底的に読者、あるいはわが国にとっての、「他者」を描き続け、そして相対的に「自己」なり「わが国」なりの特性を浮き彫りにしていくという手法をとっている作家だと僕は理解しています。そういう相対主義的な手法自体がトラディッショナル過ぎてパラドクシカルな意味でわが国の伝統に囚われてしまっているだとか、著者が忌避し相対化する対象である「わが国」のビジネスカルチャーに著者自身どっぷりつかってしまっているじゃないか、とかそういう批判があるとは思うし、僕自身そう思ったりもするのですが、一方でそういう手法をある種の到達点まで至っているのではないかとも思います。
相対化するための「他者」の象徴として、本作では北朝鮮兵士という圧倒的なまでの「他者性」を描いています。それだけでも自身を相対化するための情報源として、とても有用だと感じいってしまう部分があります。
そしてそれを際立たせるのが、語り手が章によって変化する物語の構成です。これだけ壮大な物語なので全体像を描ききるにはこのような構造しかなかったという物語的な制約条件もあった(あるいは全てを北朝鮮兵士の視点で描ききるには情報量が少なかった)とは思うのですが、この事によって北朝鮮の「他者性」が際立っているように感じました。
ラストがちょっとイージーだったとか、警鐘を鳴らしすぎ感がありすぎて鼻につくとか、色々とあるのですが、物語としても続きが気になる十分魅力的な作品です。読んでいて楽しい気分になるとか、そういう類のものではないですが、それでも楽しんで読むことができました。ウジウジとわりと批判めいた事を書いている感想になってしまっているのですが、単に僕の性格の悪さが現れてるだけだと思います。