三浦しをん/まほろ駅前多田便利軒

まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

読後にほっとした爽やかな気分になれる小説。肩に力を入れずに読める大衆小説、の傑作だと思います。

本当に等身大、というか身近というか、そういうアイコンに囲まれてゆっくりと物語は進んでいきます。主人公は離婚して独り身、その相棒は失踪者、そして登場人物も風俗嬢やヤクザばかり、さらには物語の舞台も、まほろ市という町田を思い起こさせる地方都市。このような一癖はあるのだけれど、それ以上のひねくれ感はなくて、そして魅力的な登場人物が人情身溢れるとしかいいようのない物語を展開させていきます。それでいて、こういう健康な(?)小説にありがちな押しつけがましさも感じられないのは著者の技術の高さだと思います。

殺伐とした社会を殺伐と描く事、それはそれで価値があることだと思うし、そういう小説も僕は好きです。だけれど、たとえそれが現実だとしても、殺伐としたものを直視し続けることができるほど人間は強い存在ではないのだと思う。だからご都合主義のハッピーエンドだと言われようと、こういう小説を人は、そして社会は求め続けるだろうし、僕自身も現実逃避なのかもしれないけれどこういう小説も読み続けていくのだろうと思います。