袋小路の男

タイトル作の他に「小田切孝の言い分」「アーリオ アーリオ」っていう2つの短編を収録。著者の作品は、実験的な色彩の濃い「イッツ・オンリー・トーク」みたいな作品と、沖で待つ」のようなじんわりと効いてくる作品との二つに分けられるのですが、この短編集にはどちらかというと後者のタイプのばかりが収められています。

「アーリオ アーリオ」が好きです。天文学を専攻した中年の独身の技術者とその姪のかかわりの物語。著者は、「一生懸命なのだけれどどこかずれていて、笑いにもならなくて、そして報われもしない」男を魅力的に書かせる天才だと思います。こういう小説って昔からあるとは思うのだけれど、コンテンポラリーっていうか、僕達の世代に届きやすい形に再構成するのが上手だなって。スパイスとして星に関わるエピソードがちりばめられてるのも、好き。

タイトル作と「小田切孝・・・」は連作で、著者には珍しい完全な恋愛小説。ちょっと面白い構成で、前者が女性の観点から、後者が男性の観点から、物語を見た感じです。男は前述したようなタイプのいわゆるダメな人間で、女は何故かそういうタイプの人をずっと愛し続けてしまうような人間。読み手としては、ハッピーエンドを本当に期待したくなるような描写がされていて、感情移入してしまいます。