伊藤たかみ / 助手席にて、グルグル・ダンスを踊って

著者のデビュー作。阪神・淡路大震災の1995年に出版されていて、舞台は神戸です。もちろん偶然なのだとは思いますが。

著者の他の作品と比較すると、なんていうか非常に具体性の高さが特徴なように思います。そういう意味では、デビュー作にも関わらず、他の作品と比べて丁寧に作りこまれてるって印象を受けたりします。神戸というだけではなく、西区や山手っていうかなりローカルな地名まで登場していますし、描写もある程度リアルです。神戸はある程度は知っていると思っていたのですが、西区と山手の対立なんてことは知りませんでした(所得格差であるとか、そういうことは町の雰囲気ですぐに分かるのだけれど)。
そのことが読み手に与える影響というのは(もちろん人によって受け取り方は違うだろうけれど少なくとも僕が感じたのは)、現実と主人公達の齟齬についてより強調させるような感じがします。それ以外がありそうなだけに、主人公達の考え方が変わってみえるというか。多分、こういうのって小説の技法的には結構難しいように思います。ノンフィクションの中にフィクションを違和感なく、しかもその落差は感じられるように溶かし込むというのは。

率直に言えば、物凄く青い感じがするし、ライトノベル?っていう印象を受ける人もいると思います。僕自身、結構最後まで読むまでに、中断が入りました。
デビュー作というのは吉本ばななの「キッチン」であったり、村上春樹の「風の歌を聴け」であったり、好きな作家の中でも好きな作品が多いのですが、そういう意味ではなんていうか期待はずれな感じもあります。例によって著者の作品を立て続けに読んでいるので、ただ単に食傷気味なのかもしれないですが。

最後に、なんで、神戸の地元っ子を描いているのに、せりふが思いっきり標準語なんだ!著者自身兵庫出身だし、「ミカ」っていう豊中あたりを舞台にした作品で登場人物におもいきり関西弁をしゃべらせていたので、何故なのかとても不思議です。