南木佳士 / ダイヤモンドダスト

ダイヤモンドダスト (文春文庫)

ダイヤモンドダスト (文春文庫)


著者の小説は初読。著者の書いたノンフィクションを院生時代に資料として読んでいたということに、このレビューを書こうとして気がつきました。
本著は1989年にオリジナルが発表された短編集で4つの作品が収録されています。著者は医師であり、また難民救助団としてカンボジアへ派遣された経験があり、その経験が随所にちりばめられています。

4編とも素晴らしい作品だと感じたのですが、僕は特に「冬への順応」と「ダイヤモンドダスト」に感情が揺さぶられました。前者は高校、浪人時代の恋人が医師になった主人公の勤務する病院に末期癌患者として入院し、その最期を看取る話。後者は、農村の病院に看護士として働く主人公が多数の、そして多様な死に直面する話。
こういう風にストーリーをまとめると起伏に富んでいて物語の展開で読ませる作品のようなのだけれど、筆者の「硬すぎる(自称)」文体と静謐な語り口、そして細やかな心情描写で、ストーリーを追いかけるというよりは、1文1文をかみしめてゆくという感覚で読んでゆける作品です。
とは言え、物語として取り上げているテーマも重くなかなか消化しきれないでいます。

医者に関わらず特殊な職業を生業とする人の書くものは、その職業に就いているもの以外の多くの人にとって、情報として新鮮で希少価値があって、それだけで十分魅力的だと思います。実際この作品で描かれている、途上国での医師団の活動やその結成のプロセスなどというのは、僕にとってはすごく新鮮でそれだけで魅力的でした。だけれど、小説は情報提供のメディアではないから(あるいは小説というのは情報を求めて読まれるものではないから)、プラスアルファの部分がないと、作家としての魅力は乏しいと僕は感じます。著者は十分にプラスアルファの部分を持った作家だと思います。