絲山秋子/海の仙人

2004年の作品。文庫で200ページ弱だけれど、おそらく現在までの所、著者の書いた最も長い作品だと思います。

これまで読んだ著者の作品の中で個人的には一番好きです。2007年になってから初めて読んだ小説なのですが、新年早々いい作品を読めて、非常に気分がいいです。

著者にしては珍しく30過ぎの男性の主人公。東京でサラリーマンをしていたのだけれど宝くじで3億円に当選して、敦賀の海岸で慎ましやかな生活を暮らしているのだけれど、そこにキャリアウーマンとして生きる女性が現れて・・・っていうのが大体の筋です。ストーリーラインも非常に楽しめる小説なので詳細は伏せます。

「ファンタジー」と呼ばれる不思議な男が現れるのですが、自称神様であり、その名の通りファンタジックな存在として描かれています。これまでの著者の小説は、ある種の現実主義で貫かれていて、こういう超自然的な設定はなかったので、新鮮でした。

何故、著者が「ファンタジー」という存在を登場させたか、そういうことが非常に気になるところです。実際この存在なしでも小説は成立するし、むしろ落ち着きはよかったのかもしれません。真実はおそらく著者にしか分からないだろうと思います。
だけれど、「ファンタジー」の存在が読者にどのような効果をもたらすか、ということは読み手の我々に委ねられているということができます。僕個人にとっては、ある種の普遍・不変のアイコンとして彼が存在していることで、作中の時間の経過(実際10年以上の年月が過ぎます)や主人公の状況の大きな変化をひきたたせているような気がしました。

物語としてもすごい読んでいて面白いし、最後は泣かせる話です。素晴らしい作品でした。